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服飾方法論

ライフスタイルを包括的に考える

外しが外しであるために。

 自分の意図していた主張と相手が受け取った意味との間に,ギャップがあることはよくありますよね。「そんな意味で言ったのではないのだけれど...」と後悔してしまうことさえあります。相手の顔を見て,言葉と言葉のコミュニケーションに於いてもそんなことがあるぐらいですから,やはりファッションに於いても少なからずそういうことがあるのです。

 例えば,ボタンダウンのシャツの襟のボタンをわざと外して着るのです。本来はボタンをかけて着るものですが,あえて外してそこに「こなれ感」であったり「ヌケ感」であったりを演出しようと意図して。ジャケットを羽織って同窓会へと出向きます。そこで久しぶりに会った友人から,開口一番にこう言われるのです。「襟のボタンぐらいかけろよ」と。

 そこに弁解の余地はありません。自分の意図がうまく伝わらなかったということです。なぜそこにギャップが生じてしまったのか,それは「お洒落レベル」を考えることで容易に推測することが出来ます。単に「自分と相手との間にお洒落レベルの差が2つ以上あった」ということなのではないでしょうか。相手はまだ幼稚で,シャツはしっかりと着るものであり,ボタンダウンのボタンを外すなんて考えられなかった。それ故に,貴方のシャツの着こなしがただ詰めが甘いものとして認識されたのです。そして善意から生じた軽蔑の一言を発しました。「襟のボタンぐらいかけろよ。」

 お洒落レベルの考え方はこうしたファッションの諸問題でさえも解決し得る重要な概念なのです。このようなギャップに関する問題を解決するために考えられる方法は二つあります。

 (1)相手のお洒落レベルに合わせる

 (2)相手のお洒落レベルを上げる

 まず,(1)について考えてみましょう。この場合は予めどのような人と会うかがわかっていますから,自分が譲歩する形で相手のお洒落レベルを想定し,差が±1以内になるように調整すればいいのです。この方法は「外しが外しであるために」最も効果的なものです。出掛ける先の町の雰囲気やレストランの格式,一緒に出掛ける人というような判断材料は,殆どの場合で前もってわかることですから,そうした情報をもとに自分でレベルを調整すれば例のような問題は起こり得ないのです。

 次に,(2)について考えてみましょう。この方法が有効なのは,共に過ごす時間が長い人に対してのみです。ですから,例のような場合には(1)の方法を用いる他ありません。共に過ごす時間が長い人は,自分の格好や服装を見てもらえる時間が長いことになりますから,そこで段々と自分のお洒落レベルの推移を相手に示していくことで,相手のお洒落レベルを上げる。それによって,自分と相手との間のお洒落レベルの差をやはり±1以内に定めます。そこでようやく外してみるのです。相手のお洒落レベルは自分の意図をそのままの形で認識する用意が出来ていますから,失敗することは無いということです。

 しかしながら,(2)の方法は初対面の人や町中で自分をちらっとだけ見たような人には通用しませんから,「外しが外しである」ことが伝わらないかもしれません。ダブルモンクストラップを一つだけ外してみたり,ちょっとださめな白ソックス合わせてみたりというような外しが理解を得られていないかも知れないのです。

 こういった外しが,初対面の人たちにも伝わるようにするにはどうすればいいのでしょうか。それは恐らくトータルのレベルを高めることです。髪の毛はしっかりと手入れをし,上質な服を着て,トレンドをおさえてと。「引き算の美学」と言いますが,0から引いていってもマイナスになるだけですから。