服飾方法論

ライフスタイルを包括的に考える

お洒落の定義

 「お洒落」を一通りに定義することが難しいということはわかっているけれども,自分の中で一定の線引きをしたいという思いがあるから,少しだけ考えてみたい。

 なぜ「お洒落」を定義することが難しいのかといえば,それはおそらく,絶対的な評価の軸がないからだと思う。ファッションはどうも個人の価値観に依存してしまいがちで,絶対的な評価の軸を定めることが出来ない。しかしながら,そこにあえて線引きをすることで「お洒落」を定義していけるのではないだろうか。

 逆に,「お洒落ではない」ということをイメージするのは容易ではないだろうか。僕が考える「お洒落ではない」ことの例はこう次のよう。

 ・スカート履いちゃう男子

 ・タトゥーレギンス履く女子

 これは単に,自分の好みが出ているのではないかと思われるかもしれない。それでもやはり,これらが「お洒落ではない」と断言できる明確な理由がある。それは上に挙げた例が「他人に危害を与える」ということ。例えば,クリスマスのデート当日,待ち合わせ場所に現れた彼女が,ピアノの鍵盤をプリントしたようなデザインのタイツを(若しくはレギンスを)履いてきたとしよう。こうともなると,折角,一月ほど前から予約していたグランドハイアット東京のレストラン「フレンチ キッチン」にキャンセルの電話をしなければならないだろう。例えば,合コンの数合わせに誘った同僚が,ケミカルウォッシュで穴あきまくりのデニムを履いてきたら,数が合わなくなってもいいから彼を帰らせることになるだろう。これが「他人に危害を与える」ということである。じつに端的な例ではあるが。

 株式会社ヴァンヂャケットの創設者である石津謙介さんが唱えた「TPO」という概念はまさしく「お洒落」の本質を掴んでいるのではないだろうか。「お洒落」は時と場所,場合を考慮してこそ成り立つ相対的であり,言わば流動的なものなのです。

 しかしこれでは絶対的な定義になっていないし,自分の中で線引きなど出来てはいない気がする。それでも,ここまで考えてみればなんとなくイメージが掴めるのではないだろうか。

 「お洒落って何だと思う?」と聞かれたときにはこう答えればいいと。

 「電車で他人が隣に座れるレベルのファッション」