服飾方法論

ライフスタイルを包括的に考える

【定義】ファストファッションとはなにか。世界を圧巻したトレンドたるもの

 2015年になり,巷ではファストファッションの流行も一段落なのだろう。FOREVER21やH&Mが来日した当時ほどの事件性は確認できない。逆に言えば,日本人,というか日本人のファッションにファストファッションが浸透,定着したということだろう。このブログでもまるでテクニカルタームであるかのように”ファストファッション”を用いているが,元来それが何を指し示すのかはっきりしていない人も多いかと思う。そこで,いくつかの文献を参考にしてこれを人並みに定義づけしてみよう。

 第一にファスト・ファッション | 現代美術用語辞典ver.2.0によればファストファッションというものは,

 

 

ファッション・ビジネスにおける生産・流通・小売りの形態のひとつで、ファスト・フードのように「早く・安い」を特徴とするファッション。ファスト・ファッションの定義は曖昧だが、ファスト・フードの「ファスト」が、「調理し始めてからできあがるまでの時間が早い」という意味だとするならば、ファスト・ファッションの場合は「企画を立ててから店頭に並ぶまでの期間が早い」となるだろう。注文服を生産するオートクチュールや高級既製服を生産するプレタポルテと呼ばれるシステムでは、商品となる衣服は実際の制作のおよそ半年前に発表される(例えば2012年春夏コレクションであれば、11年の秋頃にファッション・ショーが開かれる)。つまり、それらの商品の企画は当然それよりも先に始まっているので、企画から店頭に並ぶまでの期間が半年から1年かかることになる。一方、ファスト・ファッションではこの期間が大幅に短く、早いところでは企画から1-2週間程度で店頭に商品が並ぶこともある。これは、オートクチュールからプレタポルテへの──手仕事による少量生産から、より安い大量生産への──移行を踏まえれば、それを押し進めた先の必然的な結果だと言えるだろう。ファスト・ファッションは、消費者が安価でヴァリエーション豊かなスタイルを手に入れることを可能にしたため、ファッションの大衆化・カジュアル化への貢献は大きい。だが一方で、コピー製品の氾濫や生産者の労働条件など、新たな問題点が出てきている現状も指摘しておく必要があるだろう。

 

著者: 蘆田裕史

 

 

ということである。ファストファッションの定義づけに関わる本質的な部分はほとんど最初の1文のみであるように思える。 ここで外食産業でいうところのマクドナルドを例とる。ファストフードというのはそれこそまさに顧客のニーズにジャストインタイムで応えるものである。顧客が店舗側から提示されたメニューの中から任意の商品をオーダーすると,店舗側(ここではマクドナルド側)がそれを早く,しかも安く提供するというものである。このイメージをファッションに適応する。但し時間軸は少しだけずれるが,これは適応の範囲内と考えるべきだろう。要するにこのイメージの適応から得られるファストファッションの定義とは,「ブランドが流行を把握あるいは予測し,それを潜在的顧客へ低価格で提案する。その後にその顧客がそれらの商品を購入あるいは評価する」ことではないだろうか。

 単に一つの側面から見たファストファッションでは物足りないから,他の側面(あるいは定義)から考えてみることにする。そこで

ファストファッション(ふぁすとふぁっしょん)とは - コトバンクからの引用を以下に示す。

流行を採り入れつつ低価格に抑えた衣料品を、大量生産し、短いサイクルで販売するブランドやその業態のこと。安くて早い「ファストフード」になぞらえた造語。 

 ここでもやはり”ファストフード”が直感的にわかりやすい例,説明として用いられている。この引用に於いて最も注目に値することは”大量生産”というフレーズが前の引用よりも印象的であることだ。大量生産により販売価格や仕入れ価格などを抑えることが出来る現象あるいはそのシステムをスケールメリットと呼ぶらしいが,”ファストファッション”に於いてこの”スケールメリット”という仕組みは要素的に重要である。何より,低価格でプロダクトを提供するということがファストフードと共通しているように,なおかつ先の引用とも併せて”ファストファッション”は低価格,高回転が魅力なのである。

 正直に言えば上に挙げた2つ以外には特に参照するものがなかったのであるが,ここまで来ればファストファッションの構成要素を確認することで,それを再定義することが出来るように思える。構成要素を以下に示すことにする。

   (1)低価格であること

   (2)流行を取り入れること

   (3)高回転であること

それぞれの脆弱性についても述べておく。

(1)低価格であることの脆弱性

 プロダクトが低価格であることには疑問の余地はないが,プロダクトの生産国あるいはブランドの創立国と販売国との地理的な距離に依存して輸送費や人件費,税金などが上乗せされて本来の設定価格(つまるところファストファッションブランドとしてのプロダクトの適正価格)よりも販売価格が大きくなってしまうこと。例えばZARAではEU圏内の設定値段よりも日本国内での値段の方が50-80%ほど高い。さらにブランドのイメージ戦略によってアバクロであれば恋的に日本での販売価格を本国アメリカでの販売価格よりも約1.5-2.0倍にまで引き上げているという例もある。

(2)流行を取り入れることの脆弱性

 潜在顧客に対するターゲッティングに依存してなにが流行と言えるのか住み分けがし難いところ。一般的な流行が必要となるということ。

(3)高回転であることの脆弱性

 単に商品の入れ替わりが早いと言うだけにとどめておければよい。

 さて,ファストファッションが何たるものか理解できたのではないだろうか。いかんせん抽象的な部分もあるがそこは議論の余地ありとして寛大に対応をしていただきたいものである。