服飾方法論

ライフスタイルを包括的に考える

「すれ違いバトル」やってますか?

 にわかには信じることが出来ないかもしれませんが,男同士が街中ですれ違う時にはすれ違いバトルが発生しているのです。「いやいや。すれ違いバトルってなんなん? こいつ、アホちゃうか?」と感じる方も多いと思います。

 すれ違いバトルというものは,自分と相手が街中ですれ違うほんの一瞬の間に相手のコーディネートを認識して,合わせ方,色使い,素材,サイジングやブランドなどのスペックを評価し,自分の中で,どちらが勝ったか決めることです。あくまでも自分の中でのことですから,自分も相手もお互いに勝ったと思っているかもしれませんし,その逆が起きている可能性もあります。

 合わせ方とまとめてしまうと,「合わせ方ってコーディネートそのものやん」とあっさりと考えてしまいがちですが,これがファッションの分野ではダントツで扱いにくいです。服にはその出生に背景があります。最も簡単な例が国の違いです。アメリカの服,イギリスの服,イタリアの服そして日本の服というように,プロダクトの質ではなく,プロダクトそのものの違いというものがあります。そこに上乗せされた時代,文化そして社会的地位などを考慮して服を合わせるということです。イギリスのホワイトカラーがサッカーに興味がないように,アメリカのビジネスマンがトミーフィルフィガーを着ないような感じです。

 色使いとはシーズンカラーやトレンドカラーをしっかりおさえているのかという視点です。すれ違いバトルではあまり勝ち負けに影響しませんが,その人がトレンドをおっているかどうかの最低限の見極めとなります。つまりは,すれ違いバトルをするかしないかのボーダーラインとも言えます。

 素材とブランドが共にすれ違いバトルの勝敗に影響する二大因子となっています。革の質感やコットンやカシミアなどの発色など一目でわかる素材の差は,ほとんどがブランドに直結します。あまり深く掘り下げるとブランドの話になってしまいますが,やはり一流ブランドは素材も一流ですから,上質なものを求めて行き着いた先が一流ブランドのプロダクトであったというのはよくある話です。

 そしてサイジングについてです。トータルで考えた場合のサイジングは個人の趣向に依存する傾向がありますが,ここで言うサイジングとは,ジャストサイズで着ることを前提に作られたPコートをワンサイズ大きめで着るようなことを指します。各々のプロダクトが,それに望まれるサイジングで使われているかどうかということです。

 以上の五つの評価をすれ違いざまにしているのです。そういえばあのときすれ違ったおじさまはこんなことを考えていたのかと,合点がいった体験があるのではないでしょうか。明日自分の横を通りすぎるかもしれない対戦相手に負けないように,私たちは上質な服を求めて,コーディネートに思いを巡らすのです。